文: シャーミラ・コリンズ
絵: カロリーナ・ラベイ
訳: なかがわ あや
ISBN: 978-4-909809-20-9
ページ数: 32ページ
サイズ: 260 x 230 x 9mm
本体価格:¥1,600
シリーズ名: imagination unlimited
刊行: 2020年5月27日
在庫: あり
電子絵本: 主要電子書籍書店にて販売中
スリランカ生まれ。イギリスに40年以上住む、4児の母。ケンブリッジ大学の大学院で獣医学を修め、長女を出産まで動物外科医として勤務。その長女ソハナが生まれつき表皮水泡症をもっていたことから、この物語が生まれた。いまだ確立していない治療方法の調査・研究を求めて、シャーミラは2011年に医療チャリティ基金Cure EBを夫と共に設立。この本の印税は、全世界で50万人以上の同じ症状に苦しむ患者のために、100%寄付される。現在はロンドンの北で家族と、小さな犬といっしょに暮らす。この『ビンキー はねを ひらいて』が第1作。
幼い頃から絵を描くのが大好きな女の子だった。モルドヴァの美術学校で8年学び、グラフィック・デザインの学位を取得。2014年にケンブリッジ美術学校主催の「子どもの本の絵」展で注目を集める。絵本デビュー作の『ホワイトクリスマス』(岩崎書店)で、ケイト・グリナウェイ賞の候補となる。自分自身がテキストも担当した絵本多数。なかでも、ハムスターを主人公にした Crunch! は、2016年に子どもたちが選ぶ「もういっかい読んでほしい本」の最終候補となり、すでに5か国で翻訳出版されている。さまざまなテーマに取り組むことをおそれないカロリーナの魅力的な画面は、古典的な描き方とデジタルの技法が取り入れられている。
東京都出身。日本大学文理学部体育学科卒業後、私立中高保健体育の教員となる。その後、都立高校(普通科・定時制・通信制)や区立の小中学校、特別支援学校など講師として勤務する。大学時代より関心のあった「学校選択の自由」について各国の制度を学びつつ、Project Based Learningやイエナプラン教育等の実践校をアメリカやオランダで視察したことをきっかけに、日本での教育実践に力を注ぐ。日本初のイエナプランスクール認定校となった学校法人茂来学園 大日向小学校(長野県佐久穂町)の設立に尽力し、現在は同法人理事として従事する。著作に『あたらしいがっこうのつくりかた』(星雲社)、共著に『みんなのきょうしつ』(学事出版)がある。株式会社アソビジ代表取締役社長
ビンキーは、待っていました。卵からかえって毛虫になって、さなぎになっている間も、きれいなちょうちょうになれる日を楽しみにしていました。ついに、その日が来ました! でもビンキーのはねは、ボロボロで穴だらけ。まるで作りかけみたいで、ちっともきれいじゃありません。すっかり気落ちしてしまったビンキーのところへ、おさななじみのちょうちょうがやってきていいました。「だいじょうぶだよ、いっしょに飛べるようになるさ!」 小鳥やカイコ、クモやハチの協力をとりつけて、ともだちはビンキーのはねを作り直していきます。でも、ビンキーはこわくて、ずっと目をつぶったまま。はたしてビンキーは飛べるようになるのでしょうか。
想像していた未来とは違う現実が来た時、あなたはあきらめますか? 重度の表皮水泡症の娘から勇気を教えられた母親が書いた絵本を、長年日本の教育に強い関心をよせ、長野県で私立の小学校を開校するに至った翻訳者が、思いをこめて日本の子どもに贈ります。
この本は、希望についての本です。飛ぶことを自由の象徴としてとらえています。
表皮水泡症の子どもの肌は、少しの刺激でも傷つき、痛みや激しいかゆみを起こす水泡ができてしまうため、「蝶々のはねのようにもろい」と言われます。時に水泡が悪性の皮膚がんに転じることも知られています。はねがもろくて使いものにならない、本作の蝶々を「ビンキー」と名づけたのは、ソハナ本人です。
表皮水泡症の子どもの肌はきわめて弱いけれど、子どもたち自身が弱いわけではありません。服のぬぎ着、食事といった日常も、この症状の子どもには痛みを伴う作業です。時には、目が痛みだして、見えなくなることもあります。友だちとのじゃれあいや、運動での接触、階段の昇り降りも水泡のもとになります。でも、子どもたちはユーモアと強さを忘れず、痛みを超えて生きる毎日を送っています。
ソハナは、ジストロフィーも併発していますが、ソハナの前向きな精神と立ち直る力は、称賛にあたいします。ソハナの日々の苦闘が、私に医療チャリティ基金Cure EB(www.cure-eb.org)の設立の原動力となりました。この基金は表皮水泡症の医学的な試験、効果的な治療法と完治の調査に使われます。表皮水泡症の子どもたちが、すべての痛みから解放される日が来ることを願ってやみません。
本書は、繭から出た途端に理想の自分とのギャップに打ちひしがれ、他人との違いに愕然とするビンキーが、仲間に助けてもらいながら「自分はたった一人の大切な自分なのだ」と気がつく物語です。私が関わらせていただいているイエナプラン教育で、大切にされている「対話・遊び・仕事(学習)・催し」の全てが物語に散りばめられていると感じながら訳させていただきました。特に、「しごと」という言葉については、お金を稼ぐためだけのものではなく、誰しもに「役割と責任がある」という意味で読んでいただければ、ビンキーの仲間たちがした「しごと」が、ビンキー自身だけではなく、それぞれにとっても必要なものであったということが感じられてくるのではないでしょうか。本書は「私たちは個を尊重された上で共に生きていくという当然のことでありながら大変難しいことを目指しているのだ」ということをビンキー達と共に称えあえる物語だと思います。訳者として関わらせていただけたことを心から感謝いたします。